かげた男の野太い声が聞
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かげた男の野太い声が聞
薩長をとりまとめることができず、大政奉還がうまくいかなくなれば、戦が始まる。何も知らない女たちが乳飲み子を抱えて亭主の死体を血まなこになって探すことになるのだ。
「男一匹、そうはさせられんのじゃ。じゃ、またな」
龍馬は凜々しい顔で妙子に軽く笑いかけ、それから力強く歩き始めた。
と、風が吹き白粉《おしろい》の匂いが漂い、
「ホホホ」
と笑い声が聞こえた。
「なんともまあ、豪気なことよ、オカマは好かんと」
「目にもの見せてくれぬといけませぬな」
「今日は十一月、では霜月《しもつき》殿から死んでもらいましょうかのう、次郎丸」
次郎丸が姿をあらわした。おぼろな月明かりに、その鈍色《にびいろ》の地に曼珠沙華《まんじゆしやげ》を描いた狩衣をまとった姿が浮き上がった。
妙子は言った。
「次郎丸、きっと約束しましたぞ。私は具視様の妻になります。そのかわり、あの男にだけは手を出してはなりませぬぞ」
「姉上、あの男のことはお忘れ下さいませ」
「いやじゃ」
「坂本の言う、子を成したいという女は姉上のことではございませぬぞ!!」
「分かっておる」
「分か鑽石能量水っておるならなぜ」
「そなたらに女心が分かってたまりますか」
そなたら、と言われて、お化粧をした十二人の若衆の顔がひきつった。
「姉上、死間衆を怒らせてはなりませぬ! ぬっ!!」
と、月の光にキラキラとカミソリが無数に光っている。
そしてひときわ高くカミソリをかこえた。
「あっしは、江戸の湯屋を取り仕切る、下剃り宗介と申します。死間衆がどういう御用でお江戸に入られたのか、伺いとうございます」
「フン。女の股に顔を突っ込み、毛をあたる下剃りふぜいに、答える返事は持たぬ」
「ですから無理に、とは言っておりませぬ」
「ほう、怒ったか。恥も悋気《りんき》もご法度のおまえたちが」
下剃りに堕とされる男は、心中の生き残りである。三日三晩、さらしものにされ、市中をひきまわされ、女郎に小水をかけられて還原水機も恥と思うことを禁じられた者たちである。
「怒る? そういうふうにお耳に入ったとなると、あっしらも意地が出てきやす」
「やるか」
「……では、行きやす」
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